EmendoBioのゲノム編集技術について【第5回】-最終回-新規ゲノム編集ツールの探索技術:OMNI プラットフォーム
今回は、両親から受継いだ2つの遺伝子上のわずかな違いをも区別できる超高精度なヌクレアーゼを作り出す技術プラットフォームについてご説明いたします。
CRISPRヌクレアーゼを用いたゲノム編集ツールはガイドRNAとヌクレアーゼの複合体で構成され、ガイドRNAが規定する塩基配列と一致するDNA配列をゲノムの中から探し出し、その部位にヌクレアーゼを誘導してDNAを切断します。しかし、完全に一致していなくても、誤って切断することがあり、たまたま似た配列を持つ全く関係ない遺伝子を傷つけてしまうオフターゲット効果によるリスクが問題となっています。
EmendoBioでは、オフターゲット効果を排除し、患者の治療として安全に使うことのできる新たなゲノム編集ツールを作出する技術(OMNI Platform)を確立しました。
まず、細菌叢等を含む広大な微生物のゲノム情報から、バイオインフォマティクスの技術を駆使して、CRISPRヌクレアーゼの機能を有していると推定される遺伝子を検索し、新たなヌクレアーゼ候補遺伝子を見出します。次に、数多くの候補遺伝子から、実際にゲノム編集に使えるもののみを選別するため、多検体を効率的にスクリーニングできるシステムにより、タンパク質としてのサイズやヌクレアーゼ活性の強さ、標的認識の精度の高さなど様々な性質について篩(ふるい)にかけ、特徴的で有用なヌクレアーゼを多数取得しています。
これらの新規なヌクレアーゼの中には、一般に用いられているspCas9ヌクレアーゼと比べてオフターゲット効果が格段に抑えられていることが確認できているものがあります。
この新しく発見されたヌクレアーゼ(OMNIヌクレアーゼ)は、それ自体、従来のspCas9ヌクレアーゼと比較すると標的認識の精度は格段に高いのですが、両親から受継いだ2つの遺伝子間の1ヶ所の違いを区別するためには、さらに精度を上げる必要があります。このため、得られた新規ヌクレアーゼを標的配列ごとに最適化する技術を確立しました。これは、ヌクレアーゼタンパク質の遺伝子に人為的に変異を入れた変異体ライブラリを作成し、この中から、特定の標的に対するガイドRNAとの複合体として、超高精度かつ高活性のゲノム編集ツールを探し出すスクリーニング系です。
EmednoBioで開発中のELANE関連SCNの治療では、このようなスクリーニング系によって得られた超高精度のヌクレアーゼを用いて、両親から受継いだ2つの遺伝子のうち、変異がある方の遺伝子のみを削除するゲノム編集を行います。
このような精度を有するゲノム編集技術は、あらゆるゲノム編集治療を安全に行うために必須な技術であり、CAR-T療法の改良など、遺伝子疾患の治療以外にも、様々な臨床応用が期待されています。
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【第1回】ELANE関連重症先天性好中球減少症のゲノム編集治療