EmendoBioのゲノム編集技術について【第1回】ELANE関連重症先天性好中球減少症のゲノム編集治療
第1回目は、ELANE関連重症先天性好中球減少症のゲノム編集治療について、ご紹介します。
EmendoBioが臨床入りを目指している治療の対象疾患は「ELANE関連重症先天性好中球減少症(ELANE関連SCN)」といいます。
ELANEは好中球エラスターゼ遺伝子の呼び名です。好中球は、通常は体の中で造血幹細胞から絶えず分化・成熟してまいります。しかし、ELANE遺伝子に異常があると、好中球に分化しようとする細胞でこの遺伝子が働き始めた時に、異常なタンパク質が作られることによって好中球が成熟できなくなり、その結果、好中球数が減少します。
好中球は細菌感染に対して体を守るという大切な役割を担っています。好中球が少なくなると、感染制御ができず、感染を繰り返したり、感染症で死亡することもあります。
このような、遺伝子の異常により有害な働きを獲得したタンパク質ができることによって発症する疾患では、例えば、ウイルスベクターなどによって正常な遺伝子を導入するような遺伝子治療を行っても、治すことができません。異常な遺伝子を削除して有害なタンパク質ができないようにする必要があります。幸い、私たちの体の細胞には、父親から受継いだ遺伝子と母親から受継いだ遺伝子がありますので、異常な遺伝子を削除すれば、もう片方の遺伝子の働きによって、正常に好中球が分化・成熟することが期待できます。
私たちは父親から受継いだ遺伝子と母親から受継いだ遺伝子の2つの遺伝子をもっており、そのDNA配列は通常ほとんど同じですが、片方の遺伝子のたった1ヶ所だけが異なることによって遺伝病の原因となることがあります。
ELANE関連SCNの治療では異常のある遺伝子を削除することが必要なのですが、この時、正常な遺伝子を傷つけないようにしなければなりません。このためには、両親から受継いだ2つの遺伝子間のたった1ヶ所の違いを識別し、正常な遺伝子を傷つけずに異常な遺伝子のみを編集できる精度が必要で、偶然似たDNA配列を持つ関係のない遺伝子を編集してしまうリスク(オフターゲット効果)がないというだけでは不十分です。
このような高精度なゲノム編集技術は、あらゆるゲノム編集治療を安全に行うために必須な技術であり、EmendoBioでは、このような高精度なゲノム編集技術を開発し、あらゆるゲノム編集治療に用いることを目指しており、手始めに、ELANE関連SCNの治療に関して臨床試験に向けた開発を進めています。
次回は、今回ご説明したELANE関連SCNの治療の開発の過程で得られたヒト造血幹細胞を用いた非臨床試験の成績について説明する予定です。