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2021.12.13

EmendoBioのゲノム編集技術について【第4回】有害機能を獲得した遺伝子を確実に削除するためのゲノム編集戦略

第4回目は、有害機能を獲得した遺伝子を確実に削除するためのゲノム編集戦略について、説明します。 先回は、SNPを標的としたゲノム編集戦略について説明しましたが、DNAをSNPの部位で切断するだけでは、有害な遺伝子を確実に削除することはできません。 CRISPRヌクレアーゼを用いたゲノム編集では、ガイドRNAとヌクレアーゼの複合体が標的DNA配列を切断しますが、切断されたDNAは細胞が内在している修復機構によってつなぎ合わされます。この時、全く元通りに修復されると、その配列は再びゲノム編集の標的になりますが、切断・修復を繰り返すうち、修復の際に塩基の挿入や欠失が起きることがあり、結果的に元の配列と異なった配列となり、DNA配列の編集が成立します。このようにしてDNA配列が変化することによって、遺伝子が働かなくなることが期待できるのですが、どのように修復されるのかは制御できないので、修復のされ方によっては、さらに有害なタンパク質が作り出されてしまう可能性も否定できません。 そこで、EmendoBioの編集戦略では、上記SNPの他にもう1ヶ所、アミノ酸配列を規定しない遺伝子配列(共通切断点)を選び、その箇所も標的として、2か所でDNAを切断し、病気の原因となる遺伝子のDNA配列の大部分を削除することによって、修復後に有害なタンパク質が出来てしまうリスクを排除しています。 継いだ2つの遺伝子のうち、病気の原因となる変異が存在する遺伝子上のSNPの配列を切断しますが、もう1ヶ所は、SNPではなく、2つの遺伝子とも同じ配列を持つ部位を切断します。この時、病気の原因となる変異をもつ遺伝子は2か所で切断され、切断された断片は削除されます。もう片方の正常な遺伝子は、SNPの配列では切断されませんが、もう1ヶ所は切断され、すぐに修復されます。修復の過程でDNA配列が変化することになりますが、この部分は、アミノ酸配列を規定していない部分なので、変化してもタンパク質の構造に影響を与えません。 実際に患者の造血幹細胞にこの方法でゲノム編集を施した結果について、第2回でご説明していますが、有害な機能を獲得して病気の原因となっている遺伝子が削除されると、もう片方の遺伝子の働きによって、造血幹細胞から好中球への分化・成熟する能力が回復していることが示されております。この時、異常のあるELANE遺伝子は削除され、同時に、正常なELANE遺伝子の方も、一旦切断され、切断部位のDNA配列が変化した状態でつなぎ合わされているはずですが、正常なELANE遺伝子は正しく機能していたことが解ります。 次回は、両親から受継いだ2つの遺伝子上のわずかな違いを区別できる精度の高いヌクレアーゼを作り出す仕組みについてご説明いたします。

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2021.12.06

EmendoBioのゲノム編集技術について【第3回】一塩基多型(SNP)を標的としたゲノム編集戦略

ある生物種集団のゲノムDNA配列中に一塩基が変異した多様性が見られ、その変異が集団内で1%以上の頻度で見られる時、これを一塩基多型(SNP : Single Nucleotide Polymorphism)と呼びます。第3回目は、このSNPを標的としたゲノム編集戦略についてご説明いたします。 先回は、EmendoBioが開発中のELANE関連SCNのゲノム編集治療に関する非臨床試験で、健常人の造血幹細胞を用いた試験について紹介しました。健常人の造血幹細胞には病気の原因となる遺伝子変異はないのに、どうしてゲノム編集が可能なのか、今回は、この辺りの事情について、ご説明いたします。 第1回目のお話で、この病気が、両親から受継いだ2つ遺伝子のうちの片方の遺伝子のたった1ヶ所の違い(変異)によって発症すること、また、2つ遺伝子間のたった1ヶ所の違いを区別してゲノム編集することをご説明しましたので、治療では、病気の原因となる変異を標的にするものと考えがちですが、EmendoBioでは、それとは異なる編集戦略を構築しています。 遺伝子疾患はある遺伝子のたった1ヶ所の変異により発症することが多いのですが、その変異が遺伝子のどこにあるかは、患者ごとで様々です。現在EmendoBioで取り組んでいるELANE遺伝子に関しては、200種を超える変異が報告されています。病気の原因となる変異を標的にしようとすると各々の患者の変異に合わせて200種ものガイドRNAを設計することになってしまいますが、EmendoBioでは数種のガイドRNAによって、多くの患者のゲノム編集が可能な編集戦略を構築しました。 ある生物種集団のゲノムDNA配列中に一塩基が変異した多様性が見られ、その変異が集団内で1%以上の頻度で見られる時、これを一塩基多型(SNP : Single Nucleotide Polymorphism)と呼びます。両親から受継いだ2つの遺伝子のDNA配列はほとんど同じですが、ところどころにSNPが存在しています。これらの変異は通常、直接病気の原因となることはありません。つまり、遺伝子には、病気の原因となる変異の他にも違うところがあるということになります。両親から受継いだ2つの遺伝子上のSNPのDNA配列は異なる場合と同じである場合とがあり、各SNPによってその確率は異なります。 EmendoBioではELANE遺伝子上に存在することが知られているSNPの中で、両親から受継いだ2つの遺伝子間でDNA配列が異なる確率がなるべく高いSNPを3ヵ所見つけておけば、80%以上の患者でどれかのSNPは両遺伝子間で配列が異なり、標的にできることを調べ上げました。そこで、患者の遺伝子を詳しく調べ、両親から受継いだ2つの遺伝子間でDNA配列が異なるSNPを見つけ、そのSNPを標的としてゲノム編集を行う戦略を立てました。 このことにより、患者ごとに200種類ものガイドRNAを設計しなくても、数種類のガイドRNAを用意すれば、多く患者に適用することが可能になります。また、非臨床試験において、健常人の造血幹細胞を用いることもできるわけです。 次回は、毒性を獲得した遺伝子を確実に削除するためのゲノム編集戦略についてご説明いたします。

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2021.11.29

EmendoBioのゲノム編集技術について【第2回】ELANE関連SCNのゲノム編集治療開発における非臨床試験成績

第2回目は、ELANE関連SCNのゲノム編集治療開発における非臨床試験成績について、ご説明いたします。重症先天性好中球減少症(SCN)のうち、ELANE関連SCNはELANE遺伝子の異常により、造血幹細胞から好中球への分化・成熟が阻害され、血液中の好中球数が極端に減少する疾患です。 EmendoBioで開発中の治療では、患者から採取した血液から造血幹細胞を分離し、体外でゲノム編集を行った後、患者に輸注して戻します。ゲノム編集された自家造血幹細胞は患者の骨髄に生着し、一度の治療によって、一生に亘って好中球数を正常値に維持することが期待されます。 EmendoBioでは、ワシントン大学のDavid Dale博士との共同研究で、実際の患者から採取した造血幹細胞を用いてゲノム編集を行い以下の結果を得ております。・病気の原因となる変異を持つ遺伝子は削除されたが、もう片方の正常な遺伝子は削除されることはなかった。・異常のある遺伝子が削除された造血幹細胞は、培養容器で培養したとき、もう片方の正常な遺伝子の働きにより、好中球へ分化成熟することが確認された。これとは別に、採取したヒト造血幹細胞にゲノム編集を施し、実験動物(ヒト細胞を拒絶することなく受け入れることができる免疫不全マウス)に移植したところ、片方のELANE遺伝子が削除されたヒト造血幹細胞は、マウスの骨髄や脾臓において、様々な系統の細胞に分化した状態で確認され、造血幹細胞としての多分化能を維持していたことが確認できました。 今後、ゲノム編集を施した患者の造血幹細胞を免疫不全マウスに移植する実験を経て、いよいよ、ゲノム編集を施した患者の造血幹細胞をその患者に自家移植して、臨床効果を確認する治験を開始します。 ところで、上記の試験のうち、培養容器で分化の状態を観察した試験は、患者由来の造血幹細胞を用いていますが、免疫不全マウスに移植する試験は、多くの細胞数を必要とすることから、健常人の造血幹細胞を用いております。 健常人の造血幹細胞のELANE遺伝子には異常はありませんが、両親から受継いだ2つの遺伝子のうち片方のELANE遺伝子のみを削除しています。どうしてこのような実験が可能なのか?これには、EmendoBioで開発した特殊なゲノム編集戦略が関係しております。 次回は、この特殊なゲノム編集戦略についてご紹介します。

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2021.11.25

新型コロナウイルスワクチン開発に関する一部報道について

11月24日の一部報道におきまして、当社が新型コロナウイルスワクチン開発を断念との報道がございました。当社は昨年の3月以来当該DNAワクチンの開発を進めて参りましたが、液性免疫、つまり抗体上昇については満足できる結果ではありませんでした。しかしながら、臨床試験において安全性の観点から問題ないことも確認され、引続き8月から高用量製剤の臨床試験を進めているところです。当社は、これからますます安全性の高いワクチンが求められている状況から、さらに副反応が抑えられた安全性の高いDNAワクチンを実現したいと願っており、当該ワクチンの開発を断念することなく進めていますことを改めましてお知らせしたいと思います。

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2021.11.22

EmendoBioのゲノム編集技術について【第1回】ELANE関連重症先天性好中球減少症のゲノム編集治療

第1回目は、ELANE関連重症先天性好中球減少症のゲノム編集治療について、ご紹介します。EmendoBioが臨床入りを目指している治療の対象疾患は「ELANE関連重症先天性好中球減少症(ELANE関連SCN)」といいます。 ELANEは好中球エラスターゼ遺伝子の呼び名です。好中球は、通常は体の中で造血幹細胞から絶えず分化・成熟してまいります。しかし、ELANE遺伝子に異常があると、好中球に分化しようとする細胞でこの遺伝子が働き始めた時に、異常なタンパク質が作られることによって好中球が成熟できなくなり、その結果、好中球数が減少します。 好中球は細菌感染に対して体を守るという大切な役割を担っています。好中球が少なくなると、感染制御ができず、感染を繰り返したり、感染症で死亡することもあります。 このような、遺伝子の異常により有害な働きを獲得したタンパク質ができることによって発症する疾患では、例えば、ウイルスベクターなどによって正常な遺伝子を導入するような遺伝子治療を行っても、治すことができません。異常な遺伝子を削除して有害なタンパク質ができないようにする必要があります。幸い、私たちの体の細胞には、父親から受継いだ遺伝子と母親から受継いだ遺伝子がありますので、異常な遺伝子を削除すれば、もう片方の遺伝子の働きによって、正常に好中球が分化・成熟することが期待できます。 私たちは父親から受継いだ遺伝子と母親から受継いだ遺伝子の2つの遺伝子をもっており、そのDNA配列は通常ほとんど同じですが、片方の遺伝子のたった1ヶ所だけが異なることによって遺伝病の原因となることがあります。 ELANE関連SCNの治療では異常のある遺伝子を削除することが必要なのですが、この時、正常な遺伝子を傷つけないようにしなければなりません。このためには、両親から受継いだ2つの遺伝子間のたった1ヶ所の違いを識別し、正常な遺伝子を傷つけずに異常な遺伝子のみを編集できる精度が必要で、偶然似たDNA配列を持つ関係のない遺伝子を編集してしまうリスク(オフターゲット効果)がないというだけでは不十分です。 このような高精度なゲノム編集技術は、あらゆるゲノム編集治療を安全に行うために必須な技術であり、EmendoBioでは、このような高精度なゲノム編集技術を開発し、あらゆるゲノム編集治療に用いることを目指しており、手始めに、ELANE関連SCNの治療に関して臨床試験に向けた開発を進めています。 次回は、今回ご説明したELANE関連SCNの治療の開発の過程で得られたヒト造血幹細胞を用いた非臨床試験の成績について説明する予定です。

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